astre −星−
02
「9名様ですね、生憎お部屋は大部屋1つしか空いてないのですが・・・。」
「構いません。」
「では、お部屋にご案内いたします。」
やっと町に着いた手塚たちはまず宿屋へと向かった。と言ってももうほとんどの店が閉まっていたのだが。
「ま、仕方ないか。」
「そうだね、もう夜の遅いし。」
「それになるべく全員一緒のほうがいいしな。」
「そうだね〜。」
「?」
不二、河村、大石、菊丸が話している内容がイマイチわからず、リョウは首をかしげた。
「ねぇ、なんで全員一緒のほうがいいの?」
近くにいた不二に聞くと、
「部屋に入ったら教えてあげるよ。」
とにっこり笑って言われた。
「少々狭いですが・・・。」
「大丈夫です、ありがとうございます。」
手塚が言うと宿の女将さんはすまなそうに一礼して部屋から去っていった。
「不二さん、さっきの話・・・。」
「シュウでいいよ。そうだったね。手塚、話していい?」
「ああ。」
不二に確認をとられた手塚は無表情だが頷いた。
「じゃあ、リョウここに座って。」
不二が指したところはベッドの上だった。
「ん。」
「眠たくなったら言ってね。・・・・・手塚はこの国の王子なんだ。」
「えっ?!」
リョウは心底驚いた風だった。
「本当だよ。そして、この世界には今魔物が溢れている。今までは現国王様、手塚のお父上が魔物を抑えていたんだけど、国王様のお
力が弱くなってしまっているんだ。それは王の交代を意味している。手塚に兄弟はいないから自然に次期国王は手塚になるんだけど、
王になるということはこの世界に平和をもたらし、世界を治めるということなんだ。だから生半可な奴じゃあ世界は治められない。という
ことで、王になるには試練の洞窟へ行って王の証をとってこなければならない。僕達はその試練の洞窟へ向かう旅をしているんだ。」
「シュウたちはなんで一緒に来てるの?」
「僕達は手塚の下で働いているということもあるけど、昔からの友人なんだ。手塚が試練の洞窟へ向かうと知っていてもたってもいられ
なかった奴等ばっかりなんだ。」
ちょっと苦笑を交えながら不二はリョウに話した。
「皆国光のことが好きなんだね。」
リョウが言った瞬間手塚以外の全員が驚いたようにばっとリョウのほうを向いた。
「えっ?!・・・あ、まぁ、そうだね。・・・・・ねぇ、リョウ。」
「え?な、何?」
リョウは戸惑った感じで不二の言葉を待った。
「何で手塚だけ下の名前で呼んでるの?」
「な、何でって・・・ダメだった?」
「別に構わない。」
不安そうに手塚を見たが手塚の答えは別に気にしてないといった風だった。
「ダメなの?」
手塚にはいいと言われたのにダメなのかと思って今度は不二のほうを不安そうに見つめた。
「ダメじゃないけど・・・なんでなのかなと思って。」
「何でって言われても・・・シュウも他の人も下の名前で呼んだらダメかなと思ったんだけど、国光だけなんでか知らないけど『国光』な
んだって思ったから・・・。」
「おちびっておもしろいにゃぁ!」
菊丸が本当に面白い!といった感じで笑い、
「ほんと、おもしろい奴だな。」
乾も興味深いと言いながらいつも持ち歩いているノートに何かを書いていた。
ほぼ全員に笑われ、リョウは何がおもしろいのかわからず困っていた。
「え、え?」
「リョウの呼びたいように呼んだらいいよ。下の名前で呼ぶのが自然だと思ったらそう呼んだらいいよ。」
「・・・うん!」
不二の1言でリョウの疑問はふっとび、笑顔で頷いた。
その日は不二と菊丸と海堂とリョウがベッドを使い、桃城と河村は床で寝ていた。手塚、大石、乾は夜遅くまで話し合っていた。
「リョウが床でいいと言った時はどう説得しようか悩んだけど不二のお陰で助かったな。」
「ああ、あれは何を言っても床で寝る気だったからな。不二と菊丸が強引にベッドに引っ張って暴れるリョウに不二が睡眠の魔法をかけ
て大人しくさせたのはさすが魔導師だな。」
「明日暴れなければいいけどな。」
「・・・・・・・。」
大石と乾が話している間手塚はずっと黙って考え事をしていた。
「手塚・・・・?」
大石が心配そうに手塚に声をかけると手塚は2人に尋ねた。
「お前等はあいつのことをどう思う。」
「あいつってリョウのことか?」
「ああ。」
「まず敵ではないな、不二に菊丸、海堂が警戒してないからな。」
「俺も敵ではないと思う。それに手塚、お前が助けたんだろ?」
「そうだ。」
「お前の行動には全員が驚かされた。あの不二でさえもな。」
「なんであんな無茶をしたんだ?あの時は敵かもしれない相手だったのに。」
大石の言葉に手塚は1回目を閉じてから答えた。
「あいつの顔が悲しそうだったからだ。」
「え?」
「覚えてないのかと聞いた時、あいつはなんでここにいるのかもなんで足枷をはめられているのかも覚えてないと言った。その時のあ
いつの顔が本当に悲しそうだった。だから俺はあいつを敵と見なさなかった。」
手塚の言葉に2人はため息をついて言った。
「ま、お前がそう言うのならそうなんだろうな。」
「俺達はどこまでもお前についていく覚悟だからな。」
「ああ、ありがとう。」
そして夜も更けていった―
朝―
寝すぎだ、と言われまだ半分夢の中にいるリョウの足についていた足枷を乾がとってやり、リョウが寝ている間に買い物等もすべて済
ましていたのですぐに町を出発した。
「ふふ、リョウってお寝坊さんなんだね。」
不二がからかうようにリョウに言うとリョウは頬を膨らませた。
「いいじゃん、今まで寝てなかったんだもん。」
「今まで?ずっと?」
「うん。あ、でもあの木にいつからいたのか覚えてないんだけど俺が覚えてる限りあの木にいたらご飯もいらなかったし眠気もこなかっ
たんだ。」
「へぇ〜。じゃあその反動で今日の朝あんなに寝てあんなに食べたんだ。」
「もう!シュウ!!」
また不二がリョウをからかうとリョウは怒って不二を追いかけ始めた。
「こらこら。不二、あんまりリョウをからかうなよ。」
大石に注意されても不二は笑顔だった。
「だってリョウってばおもしろいんだよ。」
「シュウの意地悪ッ!!」
べーっと舌を出してリョウは先頭を歩いていた手塚の横に走って行ってしまった。
「あーあ、手塚のところに行かれたら何もできないね。」
「不二ばっかおちびと遊んでずるい!」
「エ、エイ・・・。」
「じゃあ今度は2人でリョウと遊ぼうね。」
「やったぁ!」
「2人ともほどほどにね。」
大石が疲れた顔をしていたので河村がフォローしたが2人は聞いてなかった。
「ねぇ、国光。次はどこに行くの?」
「不の国だ。」
「不の国?」
「ああ。最近主が変わったばかりでな1度行っておこうと思ってた国なんだ。」
「そうなんだ。・・・・・・ねぇ、国だったら主って王様じゃないの?」
「この世界はいくつかの国に分かれているんだ。そしてその全部の国を治めているのが俺の父だ。」
「へぇ〜そうなんだ。じゃあさ、その主達は世界の王様になりたいと思わないの?」
「思ってるだろうな。だが1度王が決まればその王が死ぬか力を失うかすると試練の洞窟の扉が開かれるんだ。そして鍵があれば誰で
も挑戦できると聞いている。」
「そうなんだ。じゃあ、早く試練の洞窟に行って王の証をとってこないとダメだね。」
「ああ。」
あなたの為に命をかけよう
それは残酷な言葉

